新型コロナウィルス(COVID-19) を防ぐ栄養学
新型コロナウィルス(COVID-19)を防ぐ栄養学
減量は中断して防御能を高めましょう
栄養科学研究所長 香川靖雄
女子栄養大学の栄養科学研究所はその前身の戦時中から、国民の危機に際して栄養学上の重要な提案を国民と政府に行って来ました。今回の新型肺炎への栄養学的対処も「栄養と料理」(女子栄養大学出版部)の6月号に解説しますが、出来るだけ早く伝えるため、要点を栄養科学研究所のホームページからお伝えします。
昨年末から中国武漢市で発生した新型肺炎はCOVID-19と命名され日本や世界で大きな問題となっています。伝染病ですから濃厚感染の機会を減らし、手洗いを始めとする予防が第一です。新型コロナ専門家会議が指摘するように「なんとか持ちこたえているが、爆発的な感染爆発を予防する必要」があります。しかし、今や明確な感染者は千人に迫り、同会議が「半数は誰から感染したか不明」と言うように不顕性感染者からの感染を防ぐことが困難になりました。COVID-19の検査が普及して多数の陽性者が病院に押し寄せれば医療が崩壊するので、自宅で療養するには感染防御能を高める他ありません。COVID-19による感染は風邪と似た鼻水、咳、軽い発熱などの症状から始まります。風邪が一般的に2-3日で治るのに対して、COVID-19による感染の場合は発熱、頭痛、咳、倦怠感が4-5日間続きます。感染した場合も大部分は治りますが、重症者は37.5℃程度の発熱、咳、強い倦怠感が3-5日あり、消化器症状を伴うこともあります。さらに重症化すると、1週間後には肺炎を起こして呼吸が苦しくなり、肺機能が侵されると人工呼吸器が必要となります。今までにない新しいウイルス感染症ですから、特効薬もワクチンもありません。しかし、ヒトにはあらゆる病原体に対して非特異的な感染防御能があります。この時に大事なのは栄養です。COVID-19感染後に生死を分けるのは十分な抗体が出来るまでの1~3週間の肺炎・高熱に耐える非特異的な感染防御能です。低蛋白血症(アルブミン3.5g/dl未満)が11~22倍も肺炎罹患率を高め、BMIが18 kg/m2未満の者も2~3倍のリスクです(図1)。
(図は全てクリックすると大きくなります。)
今回の武漢の肺炎患者死亡例でもやはり血清アルブミンが少なく白血球も少ないことが判明しています。そこで高たんぱく質食を摂ればいいのですが、高齢者はたんぱく質の消化能と同化能が低下していますから、これらを改善する半消化態たんぱく質のチーズや味噌などやロイシンの多い食事が必要です。体温は1℃上昇すると13%代謝が増加するため、発熱が起きるとエネルギー消費量が多くなります。そのため肺炎の場合は痩せた人よりも十分なエネルギーを貯えた肥満者の死亡率が2.4分の1と低く(図2)、低血糖(72mg/dl未満)も肺炎死亡率を3.2倍高めます(図3)。
さらに、今の日本人はビタミンA、C、Dなどの摂取量が推奨量を下回っています。本学客員教授で感染防御栄養学の第一人者であるCatharine Ross教授が教えてくださった論文の一つでは、COVID-19と同じRNAウイルスのインフルエンザではビタミンDとAは適量が有効であり、過剰摂取は有害である(図4)ことを示しました。
さて、中国では3月後半になって新規感染者は0になり、産業も学校教育も復活しつつあります。本学を訪れたこともある楊月欣中国栄養学会長から中国の新型肺炎に対する指導書を送って頂き、本学留学生に和訳してもらいました(図5)。指導書には以下の内容が含まれています:
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十分なエネルギーを糖質で補給するため米、小麦粉等を毎日250~400g
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赤身の肉、魚、卵、大豆、乳製品等の高品質のたんぱく質食品を毎日150~200g
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総脂肪のエネルギー比は総食事エネルギーの25~30%
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野菜を毎日500g以上
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果物を毎日200~350g
これらは大変多い摂取量のため※、摂取が困難な人は過剰にならない範囲で栄養補給食品を摂ると良いと思います。
※米100gは炊いたご飯220g、小麦粉100gはパン160gに相当します。お茶碗一杯が約150gとしたら、米で250~400gを摂る場合は3.6~5.8杯 を食べることになります。