2024.11.13
学園
未来はみんなの手で。 それぞれのライフスタイルにあわせて、持続可能な「健康な食事」をはじめてみませんか。
食のグローバル化は、人々に様々な種類の食を手頃な価格で提供し、増え続ける世界人口を支える一方、地球環境に深刻な影響を与え始めています。
世界有数の長寿国となった日本だからこそ、人と地球のよりよい未来のために、健康面にも環境面にも配慮した食生活の実践について提案できることがあるのでは、と考えます。
本学の林芙美准教授は、健康面、環境面に配慮した食生活の実践をサポートするための”人と地球の未来をつくる「健康な食事」実践ガイド”の開発に関わっています。
人と地球の未来をつくる「健康な食事」実践ガイドはこちら>>>
このガイドは、令和2~4年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)による研究に取り組みながら、その研究成果もいかして、開発されました。林准教授は、この研究チームの代表者でした。
林准教授に、ガイドの作成に取り組んだねらいや問題意識とともに、持続可能な「健康な食事」とはなにか、特に環境面での配慮や実践のポイントについて、お話を伺いました。
①栄養学をご専門とする立場で、健康面にも環境面にも配慮したガイドを作成しようと思ったねらいを教えてください。
健康のためには、適切な量を、バランス良く食べることが大切です。
栄養学は、人々の健康の維持・増進や生活の質(QOL)の向上のために、どのような栄養素や食物を摂取すべきかを明らかにする学問です。「何を」「どのように」食べるかは、個人の行動によるものでありながら、実際には社会や環境の影響を大きく受けているという特徴があります。したがって、適切な食の選択や食べ方が実践できるよう、個人の好みや知識、健康への関心といった要素に加え、食べ物がどこで作られ、加工され、流通し、どのように入手できるのかといった食物供給の流れ、そしてさまざまな情報や広告の影響も考慮する必要があります。
このように栄養学は、食全体を総合的に捉え、実際の行動に結びつく具体的な提案までを追求する学問です。
そして、私たちの選び方は、社会や環境の状況に大きく影響を受けると同時に、影響を与えることにもなります。その中で、気候変動など、私たちが直面している地球環境問題が食生活に与える影響は避けられない課題となっています。
現在、当たり前のように食べている食事が、50年後、100年後も続けられるとは限りません。また、健康のために「〇〇を食べましょう」と推奨しても、その食べ物が簡単に手に入らなければ、健康な食事の実践は難しくなります。
そこで、健康な食事を持続するためには、私たちの選択が地球環境に与える影響について、より一層考慮する必要があると考え、ガイドの作成に着手しました。
②持続可能な「健康な食事」とは、どういう食事なのでしょうか。
人々の健康という点では、身体も心も満たされる食事です。栄養バランスが整っていることとともに、誰かと一緒に食事をしたり、地域で採れたものや旬のものを味わったり、日頃の食事でおいしさや楽しさがさりげなく感じられることも大切です。
持続可能という点では、地球の健康を守るために、環境への負荷を小さくできる食事であること。さらに、社会にとっても個人にとっても無理なく継続できていることが必要なので、日本人の文化にあっていること、手頃な価格で入手しやすいことも大切です。
持続可能な「健康な食事」とは、こうした健康・環境・社会・食文化など多様な側面に配慮し、食生活全体をよりよく保ち続けることのできる食事のことです。本ガイドでは、主に健康面・環境面に着目し、その実践のため方法を整理しました。
③日本人にとっての、という点で、特徴的なことはありますか。
日本人の食事は、米を主食とする日本食(和食)スタイルで、主食・主菜・副菜を基本とすることで、多様な食材から、必要な栄養素をバランスよくとることができます。主食・主菜・副菜を基本に考えることで、それぞれの料理の食材は好きなものやその日食べたいものを選ぶことができ、体格や日々の運動量に応じて量も調整できるので、自分にあった健康な食事を無理なく続けられます。
一方、日本食は、世界的に健康な食事パターンとして注目される地中海食と比べて、食塩量が多いことが課題です。油をあまり使わず、醤油やみそなど多様な調味料を使うので、食塩のとり方には注意が必要です。
そこで、「主食・主菜・副菜、プラス減塩」が、日本人にとっての健康な食事の秘訣です。
毎食の主食は、味のついていないごはんを選ぶと、手軽に減塩できますし、主菜や副菜との味の調和を楽しむことができます。また、胚芽米のごはんなど、精製度の低い穀類を利用すれば、不足しがちな食物繊維も補えます。
④ガイド開発に関連した研究では、環境負荷の観点から、栄養バランスがとれた食事を再解析したと伺いました。どういう成果が得られたのでしょうか。
ガイド開発にあたって、お茶の水女子大学の赤松利恵先生たちと共同で、栄養バランスのとれた食事として認証を受けた「スマートミール」509食の解析を行い、主菜のたんぱく質源別に、温室効果ガス排出量(GHGE)の推定を行うための研究に取り組みました。
その結果、同じ「スマートミール」でも主菜の食材選択によりGHGEは最大約10倍の差があること、GHGEを抑制するには、複数の主菜の主材料を組み合わせることが重要であることがわかりました。
⑤環境への負荷を小さくするために、具体的にはどういう選び方をするとよいのでしょうか。
主菜は、おいしさや満足感を与えてくれる、おかずの中心となる料理で、身体の筋肉など組織の生成や成長、修復のために欠かせないたんぱく質を多く含んでいます。しかし、魚や肉、卵などの動物性食品は、大豆製品などの植物性食品よりも温室効果ガス排出量が多いこと、また動物性食品の中でも肉の種類によって温室効果ガス排出量には違いがあることが分かっています。
そこで、主菜の適量摂取や、環境負荷の小さい主材料の選び方を紹介しています。
調理の手軽さや好みに加えて、環境負荷への影響も意識しながら、無理なく続けられるやり方で、環境負荷が小さくなる食事の選択が徐々に増えていくよう、食習慣を変えていくことをお勧めしています。
⑥料理を選ぶ場面以外にも、環境負荷を減らす工夫はありますか。
買い物や保存、調理、そして片付けの場面で、できることはたくさんあります。
例えば、買い物の場面で、輸送距離が短い、過剰包装されていないものを購入することで、CO2を削減することができます。
また、商品を購入するときに棚の手前から賞味期限の近いものを購入したり、形の悪い規格外のものを選ぶことも、食品ロスの削減につながります。調理のときに野菜のへたや根の切り取りを最小限にしたり、皮まで食べられる野菜は皮ごと食べたりすれば、食品ロスを削減することができます。調理時間や使用する水の量を減らすと、エネルギーや水資源の無駄を防ぐこともできます。
外食のときには適量を注文して食べ残ししないようにしたり、市販のお弁当を食べた後には容器の汚れをふき取って洗ってからリサイクルしたり、家庭以外の食事の場面でもできることはたくさんあります。
▶自分で調理することが多い方へ
▶買って食べる・外食することが多い方へ
⑦ガイドの名称が実践ガイドとなっていますが、実践のためのガイドとした理由はなんですか。
「実践ガイド」とした理由は、単に知識として知ってもらうだけでなく、利用者が日々の食生活で実践することを目指したからです。
このため本ガイドでは、食事づくりのパターン別に栄養面・環境面から具体的な行動手順や実際に役立つヒントに関する情報を提供しています。さらに、手軽に作れるレシピ集、減塩のコツや食塩の多い食品を選んでいるかどうか簡単にわかるチェック表、食品ロスやエコ調理など環境負荷低減のための資料集も提供しています。
⑧実践ガイドとして作成するにあたって、工夫した点はどういう点でしょうか。
ふだんの食事の食べ方は、自分で調理して食べる、外食や出来合いのものを買って食べる、家族が用意してくれたものを食べるなど、人によって違います。また、主食・主菜・副菜のそろう食事がどの程度あるか、野菜の摂取を意識しているかといった栄養への関心や実践の状況も人それぞれです。
こうした食事づくりのタイプ別に、実践のヒントをメッセージとして整理することで、その人の興味のあるところから読み始めることのできる構成に工夫しました。食生活のタイプをどう分けるかについては、事前に20~40歳代の一人暮らしの方々にインタビュー調査も行いました。
また、実践ガイドはページ数が多いので、それぞれのタイプ別の概要版をダウンロードしてリーフレットして使えるように公開しています。
⑨最後にこれから環境面について、もっと配慮したいと考えている方々へ、メッセージをお願いします。
オーガニックやプラントベースフード(植物由来の原料を使って肉や魚などの動物性食品を再現した加工品)など、環境に配慮した食生活を実践する上での選択肢は増えていますが、特別なことをしなくても、手軽に実践できることはたくさんあります。
まずは、今ある資源を有効に活用する(食べ残しをしない、食べられるのに捨てない、など)、好きなものも含めていろいろ食べる(肉だけに偏らず、魚や大豆製品などもバランスよく食べる、野菜や果物を食べる、など)といったように、すぐに実践できることもたくさんあります。
「特別なこと」だと、長続きしません。どんな小さなことでも無理なく続けられることが、実践の第一歩。実践ガイドをヒントに、無理なくできそうなことから始めていただければと思います。
また、生産・加工から流通・販売までフードシステムに関わる企業の取組みも、環境負荷低減に向けて変えていく必要があります。そのためには、フードシステムの最終段階で食品・料理を選択し購入する私たち消費者から、アクションを起こすことが重要です。皆さんの一歩が、地球の未来を変えていきます。
現在、日本科学未来館で開催中のMirai can NOW(ミライキャンナウ) 第8弾「地球飯~Tasty, Healthy, Earth-friendly」の展示物に関して、林准教授が、取材協力という形で、監修を行いました。
Mirai can NOW 第8弾「地球飯~Tasty, Healthy, Earth-friendly」では、地球にも人にもやさしいごはん「地球飯(ちきゅうめし)」を提案しています。開催は、12月9日(月)までです。
●「地球飯~Tasty, Healthy, Earth-friendly」展示情報はこちら>>>
また、関連イベントとして、11月23日(土)に開催されるトークセッションに、林准教授も招かれ、料理研究家の方とともに、「鍋料理」をテーマにさまざまな「地球飯」の姿を探る企画も行われます。
●関連イベントの情報はこちら>>>
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