令和5年度 食文化栄養学実習

竹内由紀子ゼミ■食文化研究室


猫舌の謎にせまる
食べものと温度の関係

   私は猫舌だ。猫舌とは、熱いものの飲食を苦手とすることだ。小学生の時にスープで舌を火傷して以来、熱いものを避けるようになった。猫に舌と書くが、猫に限ったことではなく、人間以外の動物は皆、猫舌である。猫舌という言葉を当たり前に使っているが、私たちは猫舌について何も知らないのではないか。食べものの温度は当たり前のものとして多くの人が気にしない。その気にされていないことに興味深く感じ、提供される食べものの温度についての認識を追究することにした。
   「猫舌」という言葉は、江戸時代には存在が確認できるが、隣国の韓国にはない言葉である。現在日本において、反対語としてゴリラ舌・マグマ舌が存在し、好き嫌いに近いものだと位置づけられている。また、猫舌の人と猫舌でない人との差は、人間の舌先が熱に敏感であるため、舌使いの上手下手だと説明されている。
   日本では猫舌の人は揶揄される傾向にある。そもそも、なぜ熱いうちに食べないと揶揄されるのか。それは「温かいとおいしい」と多くの日本人が考えるからだ。なぜ温かいとおいしいとされるのか。科学的には、香り分子は温度が高いほど活発に動き、嗅覚細胞に届きやすくなるためだとわかった。
   他国の食べものの温度についても調べたが、日本ほど熱々で食べる国は少ないようである。その中でも、フランスが印象的だった。日本では「ぬるい食べもの」に対して良い印象をもっておらず、せいぜい「酒は人肌」というくらいである。しかし、フランスでは素材そのものを味わうため、レストランのメニュー表にあえて「生ぬるい」(Tiède)という説明書きがある。「ぬるい」をポジティブな意味で使用する国もあるということに驚いた。 猫舌の人に向けたグッズも存在することがわかった。飲みやすい温度まで下げてくれるタンブラーや水筒、先端に温度計がついている箸、小型の熱冷まし機が存在する。特に興味深かったのは、水筒の絶妙な温度調節方法だ。これは、NASAが宇宙服のために開発した温度調節素材を使用することで、それを可能にしている。宇宙技術が猫舌の人のために使われるという面白い事例を発見した。
   今回の発表では、日本人がアツアツを好む背景や、猫舌の人とそうでない人の差について仮説を立てて追究する。また、熱々のもの、辛いものを食べるのにもかかわらず、猫舌という言葉がない韓国と比較し、日本に猫舌という言葉が存在する背景を考察する。

非常時に「食」のもたらす安心感

   2011年3月11日に起きた東日本大震災。その日、私の両親は他県にいたため帰宅困難となり、私は兄弟と共に祖父母の家に一時避難した。親がいない状況下に不安を感じていたが、夕食を食べた際に不思議と大きな安心を感じた。このような経験から、災害時に感じる不安という課題に対し安心を与えてくれる「食」からのアプローチを考えたいと思いこれをテーマとした。本研究では、非常時の食である非常食の研究初め、被災時を想定した調理法や備蓄への調査を進めてきた。
   近年南海トラフや首都直下での大地震、異常気象による災害の発生などが危惧されている。それに伴い農林水産省は、最低でも3日分、可能であれば1週間分の水や食料を備えることを推奨しており、ローリングストックという日常食を多めに買っておき、常に備蓄をしている状況を循環させる方法が薦められている。これは、高価である非常用食料を取り揃える必要がなく、無理なく家庭に取り入れやすい備蓄方法である。一方で、ただ食べ物の不足を想定するだけでなくライフラインの遮断にも留意すべきである。たとえば、停電を想定したガスコンロの保持である。2016年に発災した熊本地震では、水不足によって備えていたカップラーメンが配れなかったことから、食料のみならず飲料水の備蓄量にも注意する必要がある。そのような発想から、ライフライン遮断の状況下を想定して、発熱剤を用いた加熱調理の試行やパッククッキング(ポリ袋に食材を入れて湯煎する加熱調理)の体験に参加した。その結果、普段の食事と変わらない温度や味で食事をできたと同時に、その調理工程や手順の難しさから、非常時を想定した料理経験、限られた食材からどれだけ美味しい物を作ることができるかというアレンジ力の必要性を感じた。これらの能力を持つことが、被災時に食から生きる活力を得ることができたり、食事を楽しむことにつながると考える。そのためには、日常的に非常時に使うものを取り入れる、フェーズフリーの考え方を用いるべきだと考える。現在では、カフェやキッチンカーの料理が非常食に使用されることや、防災イベントで非常食の提供や炊き出しが行われている。このように、日常的に非常時の食事に触れる場に赴くだけでも、被災時を想定した食の経験になり、非常時に感じる不安の軽減につながるのではないか。
   このフェーズフリーの考えを中心として、安心につながる食の備えや活用方法を知るきっかけに、この発表がなってくれるとうれしい。

食でつながる高齢者コミュニティ

   一人暮らしをしている祖父が親族の集まりで楽しそうに食事をする姿が印象的だった。祖父は、近くに住む家族や近所のサポートがあるのでなんとか生活が成り立っているのだと言う。そんな祖父への気がかりがこの研究の出発点だった。
   高齢化が進む日本では、高齢者の単独世帯の増加や世帯構造の変化により、高齢者が仕方なく孤食になってしまう状況がつくられている。孤食の高齢者は低栄養に陥りやすく、病気につながる危険性が高いため、周囲のサポートが必要である。こうした課題に対して、自治体などでは食を通して高齢者の孤立を防止し、交流を図る様々な取り組みが行われている。祖父の存在や、地域のつながりが希薄化している現状から、このような取り組みに関心を持ち、研究テーマとした。
   中間発表会では、近年開設数が増えているコミュニティカフェを取り上げた。コミュニティカフェは、生きがいづくりの支援事業などを行う長寿社会文化協会が、「人と人とがつながることを大事にする、行くとほっとできる場所」と称している。運営は、NPO法人や任意団体、個人などが主体となっている。空き店舗や空き家、福祉施設などで開設され、営業頻度は毎日から月数回のものまでと様々である。飲食提供の他、イベント・講座の実施や物品の展示販売、情報提供や相談などが行われ、地域住民の居場所や交流の場となっている。
   実際にどのような運営がされているのかを把握するため、10年以上運営を継続している3つのコミュニティカフェにうかがい、代表の方へのインタビュー調査を行った。それぞれの店舗が、どのような場所にしたいのかという開設時の理念を明確に持ち続け、それが活動内容に反映されていることが分かった。これは、利益を求めることが第一の目的ではないコミュニティカフェの運営において重要であることが考えられる。提供する食事については、安全性の高い食材を使用し、利用者の要望などに寄り添ったメニューを心掛けていることが分かった。また、スタッフは定年退職後や60歳代以上が多いことが分かり、利用者だけではなく支援する人にとっても生きがいを感じられる居場所になっているのではないかと考えた。
   今回は、食を通した交流の場が利用者やスタッフにどのような影響を与えているのか明らかにしたい。

食養生を考える

   「食養生」とは、食生活を通して、自分で病気を癒したり、健康を維持するために食物を基本とした養生法のことである。その上で、健康について考えるとき、現代でも多くの人に愛読されている『養生訓』がある。「養生」は多くの人にとって「健康」と同じ様に感じられる言葉だが、「健康」に比べると聞き馴染みのない言葉かもしれない。しかし、「養生」と書名に冠した本は2023年の現在も出版され続けており、魅力を感じる人が少なくないことがわかる。
   ところで、『養生訓』が出版された江戸時代の健康に目を向けると、平均寿命は乳幼児の死亡を含めると40歳前後、含めないと60歳程度である。その時代において、『養生訓』の著者である貝原益軒は85歳と長寿であった。『養生訓』を83歳の時に出版していることは、これまで養生を実践してきた効果の証明であるといえよう。
   私は、生命を養い、健康の維持・増進をはかるという「養生」の考え方に興味をもち、現代においても、「養生」の中にはなお、生きていく上で糧となる学びが多いのではないかと感じたため、研究テーマとした。
   6月の中間発表会までの文献調査では、実際に貝原益軒の『養生訓』を読み、「養生」に対する考え方などの理解を深めた。そこで「養生」には、心のケアを重視する特徴があることに気付いた。また、食養生を考える上で関連の深い医食同源などの事柄や、繋がりのある中医学の文献についても探索した。またそれと同時に、「養生」と現代栄養学を対比して考察をすることで、それぞれの特性の分析を試みた。
   これまでの文献調査を通して、『養生訓』が出版された江戸時代において「貸本屋」という仕組みの存在を知った。この仕組みによって『養生訓』は当時の多くの人に知るところになったのだということがわかった。
   また、食養生を実践する上で、現代において取り入れられそうなことや、同時に、同じ食品名でも現代とは食習慣が異なるので、食べている内容や分類に差異があることもあるので、現代で取り入れるには注意が必要であることも痛感した。たとえば現代では、多くの人は「米」といえば精白米を想像するが、『養生訓』の時代では胚芽部分を含めて食するのが一般的という事例もある。また、「養生」と「健康」の言葉の違いについて報告する。

暮らしの中の天然素材と台所道具

   私は、同居する祖父母の生活の知恵や物を大切に使う丁寧な暮らしが身近にあり、資源を大切にすることについて関心がある。また、2015年に国連でSDGsが採択されたように、近年「持続可能」という視点を重視する傾向がある。そこで、忙しい現代人でも無理なく環境問題に取り組める研究をしたいと思った。具体的には、毎日欠かさずに摂る食事、その準備に必要な「台所道具」、これと最近注目されつつある、環境を傷つけることなく資源の循環に貢献する「天然素材」を組み合わせることで、日常の一場面として無理なく継続できる取り組みを提案したい。
   中間発表では第二次世界大戦から日本が復興し、電化製品が一般家庭に普及し始める時期である1960年(昭和35年)以前の生活の特徴や変化などをまとめた。そこから、環境に配慮したエコな暮らしとはなにかを考察した。資源が少なかった時代の生活を調査することで、資源を節約する工夫を知ることができた。たとえば、生活の知恵や昔の道具はアナログな仕組みであり、電気等を必要としない物もある。少しのエネルギーを有効に活用することが昔の道具の特徴だと言える。また、道具を使用する際はコツや知識を必要としたため、日常的に使用することで生活の技術を得ることができた。こうした人々の生活は、日本の伝統的な一要素となっている。「甕」には、梅干しや漬物を保存する技術や文化などがあるように「日本らしさ」を感じることができる点も魅力の一つだ。中間発表ではこれらのことを発表した。
   その後の活動としては、東京都大田区にある「昭和の暮らし博物館」でのフィールドワークや、料理研究家の調理を文献から抽出した。
   「台所道具」そのものに対する理解と、使い手の視点からの「台所道具」を意識して研究を進めている。今回は、「天然素材の台所道具」を現代に活かす取り組みを中心にして紹介し、考察したいと思う。管理や手入れが難しそうなイメージのある「天然素材」の台所道具の機能的な一面や、あたたかさなどの魅力を伝えたい。忙しい現代人が「天然素材の台所道具」について考えるきっかけになれば良いと思う。

食品サンプルと日本のつながり

   ゼミ活動を始める際、好きなものをあれこれ考えていた時に気が付いた。子どものころからいつも思わず目に止めて見入ってしまう。それが食品サンプルだ。元々は飲食店において、提供するメニューを立体的に利用客に示すために作られたものだ。私が幼稚園生の頃ミニチュア集めに熱中していた。現在は実物大で忠実に再現しつつ、ユーモアも交えた表現で日本の人々を魅了させている、食品サンプルに惹かれたため、テーマにした。
   前回は、食品サンプルの歴史を追跡や、制作の様子、食品サンプルが飲食店の料理展示だけでなく栄養指導、医療トレーニングのモデル、食品の品質管理など幅広く事業を広げていることについて発表した。さらに、食品サンプルの派生としてミニチュアや素材がフエルトや粘土のものなど多様化している。また以前は特に食品サンプルは約100年の歴史があるという事、誕生には3人の人物が携わっていたとされているがはっきりと言えない事、戦争の時原料不足で製作ができない時期を食品サンプルは乗り越えたことなどを年表を用いてまとめるのに注力した。
   今回は食品サンプル会社の社長である岩崎様にインタビューする機会を得、食品サンプルの展望についてお話しいただいた内容を紹介する。そこから、なぜ日本で定着したのかを日本の食文化や日本人の特性などから自分なりにまとめたいきたい。前回に引き続き食品サンプルの活躍の場が多様化している例もまとめて紹介したい。
   活動を始めた当初は、「食品サンプル=飲食店にある物」で、SNSが当たり前となった現在では需要が減り、衰退していくものだと考えていた。たとえば飲食店を選ぶ際、SNSで写真を見て決めたという人がいたとする。そんな時、食品サンプル持つ役割である客寄せやメニューとしての役割は活用されなかったということになる。しかし、このような時代にあって、今なお食品サンプルが存在するのは、長年慣れ親しんでいたことや、現物サイズが確認できるという安心感という、食品サンプルの持つ役割が生きているからなのではないかと今は感じている。

国産山羊チーズの展望

   みなさんも、カマンベール、モッツアレラ、チェダー、ブルーチーズなどの癖があるナチュラルチーズを、一度は食べたことがあるのではないだろうか。農畜産業振興機構によると、従来は保存性と携帯性の観点からプロセスチーズが主に消費されていたが、近年は食生活の変化などによりナチュラルチーズへの人気が高まっており、ナチュラルチーズの消費量は1998年度に初めてプロセスチーズを上回って以降、徐々に上がっていく傾向が維持されているという。
   私は両親の影響もあり、子どものころから食卓にはこうしたナチュラルチーズが並ぶ機会が多かった。初めはカビが付着していることや独特で強い香りを放つチーズが苦手だったが、少しずつ口に入れるうちに、高校生になる頃には癖になっていた。
それが高じて、大学一年生のときにナチュラルチーズ専門店でアルバイトをした。その際に、今度は山羊チーズに魅了された。国産のナチュラルチーズをつくる工房は、2010年の段階で322工房と増加してきたが、このうち山羊チーズを生産する工房は31工房であり、未だ国産の山羊チーズは生産数が少ない(農畜産業振興機構)。販売されている山羊チーズはほとんどが輸入されたチーズである。
   なぜ工房数・生産量が少ないのか、国産山羊チーズと輸入山羊チーズとではどのような違いがあるのか。山羊チーズをより多くの人に知ってもらいたいと思い、テーマとした。国内における山羊チーズの現状、今後の発展を考察し、PRにつなげたい。
   中間発表では、チーズに使われている乳の種類や製法などを調査し、山羊チーズの認知度アンケートや、私自身が2ヵ所のチーズ工房に赴いてフィールドワークをした結果発表した。
   今回は、牛を始めとした他乳との栄養価の比較、国内外のチーズの食文化、チーズの生産過程や生産するうえでの課題の考察、チーズ工房やチーズイベントでのフィールドワーク、アンケート調査の結果を報告する。また、山羊チーズの生産や消費が盛んなフランスにおける山羊チーズの食べ方や、私自身が美味しいと感じたチーズの食べ方を紹介する。

八丁味噌!食べてみそ?
その魅力と可能性

   古くから日本の食文化と関係の深い発酵食品の一つである「味噌」。元々私は味噌が好きで興味があったが、今回研究テーマに取り上げたきっかけは、あるYouTuberの動画だ。その動画で愛知県岡崎市の名産品である「八丁味噌」が紹介されていたが、「名古屋めし等の料理以外にも使い道があるのでは?」と考え、研究に取り組むことにした。しかし近年、八丁味噌はGI制度による名称使用問題が持ち上がっていることがわかった。
   さて、皆さんは「味噌」と聞いて思い浮かべるのは何味噌だろうか?昨今コロナ禍を経て発酵食品が再注目される一方、若者の味噌離れが問題になっている。そんな若者にも味噌の魅力を伝えていきたい。
   中間発表では、「味噌」についての基礎知識や八丁味噌という名前の由来・歴史、伝統的製法についてまとめ発表した。
   その後、9月8日には実際に愛知県岡崎市へと赴き、「株式会社まるや八丁味噌」と「合資会社八丁味噌カクキュー」の2社の味噌蔵見学をさせていただいた。現地で実際に自分の目で見る八丁味噌の伝統的製法や、蔵の中に満ちる味噌の香りは、その場に行かなければ感じることの出来ない体験で、フィールドワークの大切さを改めて感じることができた。また「合資会社八丁味噌カクキュー」では、企画室長兼品質管理部長の方に直接インタビューをする機会をいただいた。このインタビューでは、八丁味噌に対する想いや、現在八丁味噌が抱える問題について、味噌蔵のリアルな現実を聞かせていただいた。また、「八丁味噌の使い方が分からない人に対して、調理等を通して、世に発信する人がいると嬉しい」とも仰っていた。
   最終発表会では、八丁味噌を使った料理の試作試食を行い、八丁味噌を使用し考案したレシピについて紹介する。「名古屋めし」という八丁味噌のイメージだけでなく、新しい視点での八丁味噌を皆さんに伝えられたらと思う。この発表を通して、八丁味噌の魅力とともに、使い方について少しでも多くの人に知ってもらえたら嬉しい。皆さんもぜひこの機会に八丁味噌を一度ご賞味あれ!!

長野県の郷土食は日常食?
おやきから見る郷土食の伝統

   私は幼少期からよく父方の祖母と料理をしていた。そこでたくさんの地元、長野県の郷土食を作り、食べていた。隣近所との付き合いも多く、一緒に漬物を漬けたりすることもあった。
   私にとっては「普通」だったこの経験が、成長するに連れ「珍しい」ことだと知った。
   おやきとは長野県の代表的な郷土食の一つで、もともとは北信地域で多く食されていた地域食である。主に小麦で作られた皮の中に、野沢菜や切干大根などの塩味のある飯のおかずであるような餡や、あんこ(小豆の餡)やサツマイモなどの甘い餡が包まれている饅頭のようなものである。現在では長野県内全域で郷土食として製造・販売が行われており、観光資源の一つとして活用されている。
   中間発表会までの調査で、おやきにはハレ(行事食)とケ(日常食)のどちらも存在することがわかった。そして現在の製法はハレのおやきに近いのではないかと感じた。そこでさらに調査を行い、おやきには皮や餡の違いだけでなく仕上げの加熱方法にも地域ならではの製法が用いられていることもわかった。
   今回は、おやきが販売されている場合、どこで販売されているのか、おやきはどこまで日常に浸透しているのか、郷土食とは日常食か否かなどの調査を行った。商品として販売されているおやきのバリエーションや、季節による餡の変化、試食による皮や餡の比較、アンケートやインタビューによるおやきの認知度や食においての位置づけなどの調査を行った。また、長野県内でのおやきの皮や餡だけでなく製法の違いについて、北信・中信・東信・南信の4つの地域での分布の様相も探った。
   また、県外の人はおやきに何を求めているのか。また、県民たちはおやきを食事の中でどのように位置づけているのかについても調査を続けている。

昆虫食のこれから

   皆さんは、昆虫が昔からありふれた食べものだったと知っているだろうか。昆虫食は、2013年にFAO(国際連合食糧農業機関)が公表した報告書によって、世界から食糧危機の救世主として注目されている。その一方で、日本では賛否様々な意見が飛び交っている。私が昆虫食に興味を持った理由は、自分自身が「昆虫は食べないもの」として認識していたからだ。大学の講義で昆虫食に触れ、好奇心を掻き立てられて、現在ある昆虫食と今後活用が期待される昆虫食を知りたいと考えるようになった。そこで、昆虫食を食文化栄養学実習のテーマとして、これからの昆虫食の形を新しい視点で提案したいと考えた。
   中間発表会では、昆虫食の歴史から、昆虫がありふれた食材であること、昆虫食についての世界の動向と、これから訪れる食糧危機における昆虫食の役割についてまとめた。
昆虫は、現在世界人口の約3分の1によって食されている食材である。日本でも1950年代ごろまでは全国で食べられていたが、生活様式の変化や経済成長によって食する地域が減少した。しかし、イナゴの甘露煮やハチの子の缶詰は今も販売されており、長野県などで現在でも昆虫食の伝統は継承されている。
   現在、昆虫が食糧危機で期待されるのは、畜肉(家畜を屠殺して作られる肉)を代替するために人工的に製造される「代替タンパク質」としての役割だ。昆虫は畜肉に比べて生産する過程で出る温室効果ガスが少ないことから、環境保全対策として有効だと考えられている。穀類には含有量の少ないアミノ酸を多く含み、人間に必要な微量栄養素も多く含むことから栄養学的に有望な食料資源であると期待される。現在では昆虫をそのままの姿で食べることへの抵抗感に配慮し、昆虫を乾燥し粉末状に加工する昆虫パウダーが開発され、様々な食品への使用が始まっている。こうした事実を知って、私は昆虫を畜肉のように料理に応用できるよう手を加える昆虫肉を提案したいと考えた。
   今回の発表では、引き続き食糧危機と昆虫食について追求し、昆虫の栄養と昆虫肉を試作した成果について報告する。この提案を通して、昆虫をそのままの姿で食べる以外にも様々な食べ方があることを発信し、「昆虫は食べないもの」ではなく「食材のひとつの選択肢」であることを伝えられたら嬉しい。

野外で味わう屋台の魅力

   私は夏祭りや縁日の賑やかでどこか懐かしい雰囲気が好きである。また、屋台特有の外で買って外で食べるという、普段の食事スタイルとは異なる特別な感じも魅力的だと思う。このように、祭りの屋台に興味があったことがきっかけで、ゼミ研究では屋台に注目し、研究を進めている。
   前回の発表では屋台の定番である祭りの屋台について紹介した。日本の屋台の始まりは江戸時代であり、享保年間(1716~1736年)に出現し、天明年間(1781~1789年)以降に盛んになったといわれている。当時は、現在の一般的な屋台のように限られた機会でのみ出店するのとは違い、都市の人々にとって日常的な身近に存在するものであった。当時、「江戸の四大名物」と呼ばれていた天ぷら・すし・そば・うなぎの蒲焼きは、江戸時代に発達した屋台によって、庶民の味として広まった。また、三つの神社の祭りに参加し、屋台の調査を行なった。実際に調査したことで、祭りには食事系からおやつ系、ゲーム系など、子どもから大人まで幅広い世代が楽しめる、バリエーション豊かな商品が集まっていることや、定番商品の見た目や種類に変化が起きていることに気づいた。さらに、現在の屋台には海外由来の新しい食べ物も多く入ってきていることがわかった。これらの気づきをまとめて、祭りにおける屋台の魅力を発表した。
   祭りの屋台ならではの魅力について理解を深めた上で、次に着手したのは、現代の進化系屋台と言える「キッチンカー」の調査である。キッチンカーの市場規模は年々拡大傾向にあり、東京都におけるキッチンカーの営業許可件数は、国土交通省「令和2年版土地白書」によると、平成元年(1989年)の415台から平成29年(2017年)の3379台まで約8倍に増加している。キッチンカーの発祥はアメリカである。一番最初のキッチンカーは1866年にテキサス州の牛飼いであるチャールズ・グッドナイトが軍用馬車を改造して作った「チャックワゴン」と呼ばれる移動式の調理施設だといわれている。
   調査を進める中で、キッチンカーはオフィス街やイベント以外に、高齢者施設や被災地への食事提供などの例があることがわかった。また、市場の基準に合わない規格外野菜を農家から買い取って、その食材で調理したものを販売するといったフードロス削減など、様々な場面で活用されてもいた。今回の発表ではキッチンカーを中心に紹介して、引き続き屋台の魅力を伝える。

ほっとする古民家カフェ

   近年は様々なコンセプトのカフェがあり、人々は思い思いにカフェを利用している。その中に、どこか懐かしく温かみが感じられる、古民家を再利用した「古民家カフェ」がある。現在古民家は様々なものに活用されており、中でも、古民家をカフェとして転用している例が多く見られる。私自身様々なカフェを利用する中で、古民家カフェについて知り、古民家カフェならではの空間に魅力を感じた。古民家カフェは、ほっとする雰囲気の落ち着いた空間で、何時間でも居座ってしまいたいような心地良さがある。なぜ古民家カフェはほっとするという心地良さがあるのだろうか。
   中間発表では、古民家は、全国古民家再生協会によって「1950年の建築基準法の制定時に既に建てられていた伝統的建造物の住宅すなわち伝統構法とする」と定義されていることや、古民家の空き家活用例、古民家と空き家の現状、また実際に古民家カフェで行ったフィールドワークなどについて報告した。
   現在、放置される空き家は増加しており、管理が不十分な空き家には、防災性の低下や衛生状態の悪化など様々な問題がある。だが、実際に空き家となっている古民家を使用した例も増えてきている。古民家を再利用し、解体して木材や壁などを活用することで、古民家ならではの温かさを活かし、伝統的建造物や空き家となった古民家を利用することができる。地方においては、古民家を利用した地域振興なども行われ、外国人観光客など、国内外の人々への観光へ活用されている。また、空洞化や過疎化などが問題となっている地域に、住民が集える憩いの場ができることなど、地域活性化に生かすことができることなど様々な魅力やメリットが考えられる。
   様々な魅力がある古民家カフェについて、古民家がどのようにして活用されているのか、近代化が進んだ今、なぜ古民家を利用しカフェが作られているのか。他のカフェとの違いや、古き良きものが活用されている古民家カフェの魅力についてさらに検討し、伝えていきたい。