幼児の食べ物の好き嫌いについて
食情報科学研究室    菊地 美恵

背景と目的
 いつの時代も、子供を持つ親の悩みに
「好き嫌い」はあがってくる。
 しかし、育児本や育児雑誌には、
「好き嫌いは心配ない」 「好き嫌いも個性」
などの記事が多くあった。

調査内容
1、幼児の食べ物の好き嫌いの実態調査
  * 「好きな食べ物」 「嫌いな食べ物」の具体的な
    食材名と、嫌いな食べ物の数
  * 「嫌いだ」と考える行動、「嫌わずに食べる」と
    考えられる調理の状態
2、好き嫌いについて、保護者の意識
   *  嫌いなものを食べさせるための工夫
3、情報(肯定論・否定論)が保護者の意識に
  与える影響の把握

調査方法
実験的調査を留置き法による自記式質問紙調査
  2要因各2水準のL4直交実験計画(被験者間割付)
情報の提示方法
 「栄養上問題のない好き嫌い」についての
 2種類の情報を用意。
  実験要因1 : 好き嫌い肯定意見−直さなくてよい
  実験要因2 : 好き嫌い否定意見−直すべきだ
  対象者を@情報なし A肯定意見のみ B否定意見のみ C肯定・否定2つの意見 の4つに分けて実施

調査対象者
【調査対象の抽出方法】 集落抽出法
 (2段抽出法:1段が保育園単位で無作為抽出、2段が全数抽出)
【調査対象者】 埼玉県坂戸市立の保育園3〜5歳園児の保護者                 184名 (主に子供の食事作りをしている人)

対象者について
五歳児      男 30名        女 29名
四歳児      男 31名        女 29名
三歳児      男 35名        女 26名
合 計       男 96名        女 84名
不 明                        4名
総 計                     184名

主に子供の食事を作っている人

1.好 き 嫌 い の 実 態
好き嫌いはある?
どんな食べ物が好き?

好き嫌いの有無

 好きな食べ物トップ10
   6位   納豆        29人
  7位   果物        23人
  8位  ブロッコリー    19人
  8位  マグロ        19人
 10位 りんご         18人
 10位 白米       18人

 嫌いな食べ物トップ10
1位 ピーマン  60人
2位  セ ロ リ    31人
3位   ね ぎ     29人
4位   な す     24人
5位  ト マ ト     21人
6位 キャベツ   15人
6位 しいたけ   15人
8位   肉      14人
9位  き の こ   13人
10位 にんじん  11人

2.子供の好き嫌いに対する
  保護者の意識
嫌いな食べ物を食べさせるために
何をしているの?

判断の段階
料理に入っている状態で、
  その食材が嫌いだといえる段階

嫌いな食べ物を食べさせるために何かしますか

嫌いなものを食べさせるために
何をするか

何もしない理由

3.情 報 提 示 効 果
好き嫌い肯定意見、好き嫌い否定意見を
提示すると・・・

 分 析

直すことにこだわらず、
おおらかな気持ちで考えるべきだ

献立の範囲を狭める

健康上問題がある

食品選択が不自由になる

情報の提示によって・・・
1)「肯定意見:直さなくてよい」をあたえた場合にのみ、保護者の好き嫌いの意識に効果があった。(「否定意見:直すべきだ」は効果がなかった。)
「直すことにこだわらずおおらかな気持ちで考えるべきだ」
「献立の作成の範囲を狭めない」
「健康上、問題がない」
「食品選択が不自由にならない」
2)直接情報として与えていないことにも、差が出る。

まとめ 1 好き嫌いの実態
好き嫌いがある幼児は8割弱。
嫌いなものが1〜2個程度の場合は「好き嫌いがない」と答える人もいる。
好きな食べ物は、野菜・肉・果物が多かった。
  嫌いな食べ物は、圧倒的にピーマンが多く、
  味やにおいに癖のあるものが多くあった。

まとめ 2 保護者の意識
嫌いなものを食べさせるために何かしている人は7割(潜在的には、直すべきだと思っているのでは?)。
食べさせるための手段は、強制的ではなく子供が
 自発的に食べるよう、「ほめる」「調理に工夫する」
 「食べてみせる」人が多かった。

まとめ 3
 保護者に対する情報の提示効果
「好き嫌いを直さなくてよい」という、肯定意見を情報として与えると、好き嫌いに対する意識に差が出る。
「好き嫌いは問題だ」という、否定意見を情報として与えても、差は出ない。

考察
保護者は潜在的には直すべきだと思っているようだ(何かやっていると答えた人が7割)
しかし、好き嫌いを直すべきだという否定意見を情報として与え、強化しても意識に差は生じにくい(反発もあるかも?対象者には身近で現実的・実際には甘くない問題とも考えられる?)
他方、好き嫌いは直さなくてよい、という肯定意見を情報として与えると、意識に差が生じ、耳に優しい意見に誘導されることが読み取れる。