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溝口です。よろしくお願いいたします。
テーマは「お年寄りと食」です。
まず、私がこのテーマに決めるまでの流れを説明します。
最近、父親と朝食をとることが多いのですが、父親の食べ残しがとても気になったので、話を聞いてみると「歯が痛くてあまり食べられない」と話していました。父親の食べるものには偏りが見られ、食欲もあまりありません。介護福祉士として働いていた母親の影響で高齢者の食事の現状を聞かされていた私は、その話と父親の様子を見て、歯の悪さ・身体の老化は食に大きなダメージを与えていると思いました。
食事は楽しいものだと当たり前のように考えていた私ですが、満足に食事ができない人が多くいることを知って、それを少しでも改善できないかと思ったのがきっかけです。そこで私は一番興味のあった高齢者の食から「歯の大切さ」を知り、さらに歯が悪い人のために幅広い献立の選択肢を提案してみようと考えました。
それでは、人間が歳をとると食事にどのような影響がでてくるか説明していきたいと思います。
私たちの身体は、加齢とともに各組織や器官の機能が低下していきます。
加齢に一般的な特徴としては次のようなことがあげられます。
味覚感度・嗅覚・視力が低下します。
味覚を司る「みらい」の数が減少するとともに、みらい自体も萎縮するため味覚感度が低下します。味の質に関しては、甘味と塩味に対する感受性の低下が酸味よりいちぢるしくなります。このために、非常に甘いものを平気で食べたり、塩味についても濃い味を好むようになります。嗅覚も歳とともに衰えるので、腐り始めているものを気がつかずに食べたり、食べものの香りを感じにくくなり、まずいと思ってしまいます。
味覚が変化した場合どのような工夫をすればよいのでしょうか。具体的な例を紹介したいと思います。
多くの方に現れやすい味覚の変化として、甘味に対する感受性の低下があげられます。
そのため、非常に甘い物を平気で食べてしまうようになります。肥満やその他の病気への影響が心配されるので,低エネルギー甘味料を混用するのが良いでしょう。
甘味の次に上げられるのが,塩味に対する感受性の低下です。濃い味付けを好むようになります。塩分のとり過ぎは、高脂血症やその他の病気の悪化に影響する。1品は普通の塩分濃度をつけた料理にし、その他のおかずや食卓で調味料を使う場合に、できるだけ塩分を用いない工夫をし、使う場合でも減塩しょうゆや割り下しょうゆ、調味酢などで満足感を与えます。
嗅覚の衰えにより味の深みを感じなくなります。昆布・干ししいたけ・鰹節貝類などの旨みで、料理の美味しさを増したり油を使ってコクを出すのも良いかもしれません。
濃い味を好むようになったお年寄りにとって、普通の味付けが物足りなく感じてしまいます。その場合は、食品の香りでカバーしてください。しょうが・ねぎ・みつば・ごま・レモン・柚子などの香りを積極的に使ってください。香辛料で味に変化をつけてもいいでしょう。
次に、歯の衰えがあげられます。
歯は、三度三度の食事や間食などで酷使するため、加齢とともに消耗し、歯根が萎縮したり歯と歯の間に隙間が出来自然にぬけやすくなります。義歯になると咀嚼力が低下し、硬いものや歯にくっつきやすいものは食べにくくなります。そのため軟らかい物を求めるようになり、食事に偏りが出てしまいます。
歯は、食事とどのような関係があるか説明していきたいと思います。まず歯の役割です。食物を咀嚼し、消化を良くする。料理されたものを、ほど良い大きさに噛み切る。噛み砕く。臼歯ですりつぶす。以上のような働きをしています。いろいろな食品が食べられなければ栄養は偏ってしまいます。歯の重要性はここにあります。
また、歯は噛み砕くだけでなく食物の味の一部も味わっています。
俗に「歯ざわり」「テクスチャー」と呼ばれるものです。例えば、おせんべいは食べるとボリボリ・天ぷらはさくさくと感じますね。この歯ざわりが変化することでおいしさにも大きく影響します。歯はこういった意味でも重要性を持っています。
その重要な歯を悪くしている人にはどのような工夫をすればよいのでしょうか。調理方法の工夫を紹介します。
かまぼこ・たくあんなど、弾力のあるものは苦手とされます。噛みきる事が困難で、それでも食べ慣れたものは食べたいものです。その場合は、かまぼこは千切り、たくあんは薄く切るかみじん切りなど工夫して提供しましょう。「あれもだめこれもだめ」では栄養不良になったり食べたいものが食べられない欲求不満が出て、楽しみの1つが消えることになります。
いか・ごぼう・レタスなどは筋っぽく飲み込み辛い食品です。
いかは包丁を多くいれ、ごぼうなど煮ても硬い食品は隠し包丁を入れましょう。レタスは千切りを提供するのが好ましいです。
もちは食べ辛い代表的な食品といえるでしょう。食べられないなら無理をせず、食べられる人には小さく切って提供しましょう。意外な所で食パンも噛み切れず食べ辛いとされています。トーストにすればもろさが出て食べやすくなります。しかし、時間をかけて焼いてしまうと硬くなって再び食べ辛くなってしまうので注意してください。
その他の工夫を紹介します。きんぴらごぼう、キャベツソテーの場合一度茹でてから炒め、とんかつは肉をたたいたり筋を切るのを忘れないで下さい。さらにリンゴはすりおろすなど「健常人の調理法よりも一作業余分に」を心がければ、食品も幅広く使用でき、咀嚼困難でも食べる事が可能となります。
さらに加齢とともに唾液腺が萎縮し、唾液の分泌量も少なくなりねんちょう度が高くなります。そのために口の中が渇いた状態になり、食べ物が飲み込みにくくなります。
また、喉や食道が狭くなったり、筋肉や靭帯の緩みやたわみなどが重なって嚥下のための運動が妨げられます。
胃粘膜、胃腺の萎縮が進行し胃酸の分泌が低下するため胃における各栄養素単位時間あたりの消化能力が停滞するので時間がかかります。
高齢期になると意識的に動かない限り日常活動はじょじょに減少し、その結果食欲も衰えて少食になりがちです。食欲のない状態が長く続くと栄養量不足になって病気の引き金や気力の低下を招いてしまいます。食欲を低下させない工夫が必要になってきます。
それでは食欲を出させるための工夫を7つ紹介します。
1・
2・特に、ご飯や汁物はさめてしまっただけで味の評価がぐっと下がってしまいます。温かい料理は温かく、冷たい料理は冷たくして出すように心がけたい。
3・料理は口に入れて味わう前に目で食べると言われ、彩りのよい料理を見たときに食欲を出させる力を持っています。
4・料理に合った食器に立体的で美しく盛り付ける方法を日頃から心がけてください。
5・
6・日常食の中に、四季の変化が感じられる料理や年中行事にかかわる料理が出されると、食事も楽しめる上に、食事を介して懐かしい思い出も引き出され食欲が出てくる。
7・明るく清潔でゆったりと楽しく過ごせる食事環境作りが大切である。
これは「高齢者のための食生活指針」です。私たちの食生活指針とは違い、を主にした指針となっています。
お年寄りに欠乏しやすい栄養素がいくつかあるので紹介します。
まず、カルシウムです。
カルシウムはご覧のような働きをしています。
欠乏すると骨と歯が弱くなる、姿勢が悪くなる、神経質、神経過敏、神経性の頭痛を起こしやすくなるという症状現れてしまいます。
鉄です。
鉄の働きはご覧のとおりです。
鉄の欠乏症状は貧血をおこす、疲れやすく忘れっぽく根気がなくなってしまいます。
ビタミンAも欠乏しやすい栄養素といわれます。
働きはご覧のとおりですが、欠乏すると発育が阻止され夜盲症を生じ、乾燥性眼炎、角膜軟化症になり、皮膚が角質化するともいわれます。
お年寄りの方々の食嗜好はどのようなものなのか、もしかしたら一般的にいわれている「和食が好き」などという食嗜好は間違っているのではないか、嫌いな人もいるのではなど疑問がわいてきたので、実際にお年寄りの方々にお話しを伺ってきました。
今年の八月、都内のデイサービスセンターで食事見学をさせていただきました。お昼休みには利用者の方々に、食に関して様々なお話しを伺うことができたので、ここで発表したいと思います。
質問内容はご覧のとおりです。
北海道出身のAさんです。
好きな食べ物は北海道の特産物、いくら・たらこです。
しかし、高脂血症、高血圧、糖尿病ということで、この大好物は控えているそうです。
千葉県出身のBさんは、嫌いな食べ物はしいていうならイモ類だそうです。小さいころいつも食べていたのでもう食べたくないそうです。この方は80代後半というお歳でしたが、好き嫌いはほとんどなくお元気なかたでした。
神奈川県出身のCさんです。特に病気はしていませんが、食事は必ず腹八分目にするなど、健康管理に大変気を使っていました。
浅草出身のDさんはちゃきちゃきの江戸っ子でお元気なかたでした。
昔からタバコを吸いお酒もよく飲んでいましたが、自分の健康を考え自ら禁煙禁酒されたそうです。
富山県出身のEさんです。
魚が本当に好きなかたでした。自分では同じような調理法しかしないので施設での食事を参考に様々な調理法を自宅でも試しているということでした。
兵庫県出身のFさんです。
関西出身のため、例えばうどんのように関西の味とは大きく異なってしまう関東の味付けが好きになれないと話していました。
好きな食べ物、嫌いな食べ物についてまとめてみました。
好きな食べ物はみなさんばらばらの意見でした。
予想を反してカロリーものを好んでいるかたが多かったです。
嫌いな食べ物ですが、これは共通していて個性のある食品はみなさん苦手なようでした。
普段の食事についてお伺いしたところ、みなさん自分の健康を第一に考え生活をしていらっしゃいました。持病を持つ方が多かったので、お医者さんのアドバイスなどから食生活に充分に気をつけているとの事でした。
お話しを伺ってわかったことは、お年寄りだからといってあれが好きだということはなく、お年寄りとわれわれとでは、食嗜好は全く変わりません。むしろ私たちよりこってりした食事を好んでいる気がします。
ほとんどの方は、自分の出身地の特産物を好きな食べ物と話しています。「なじみのある味」が一番という事でしょう。
食に対しての知識が豊富なのは、お医者さんからのアドバイスを受けることが多いためです。しかし、テレビから情報を得ている方も多くいたので、食に対しての興味が強いことがわかりました。
新しい食材をとりあえず食べてみるという方は少なく、手をつけないというお話しを聞きました。
お話しを伺った全ての方が自分の体を知っていて自己管理をされていました。今の生活が自分にとってあまりよくないならば、すぐにでも改善できるように努力されているようでした。
実習を進めていくにつれて、「栄養素の欠乏」「食べ辛い食品の多さ」がとても気になってきました。施設でお話しを伺ったみなさんが行事食をとても楽しみにしているということなので、おせち料理の中でその気になるポイントを改善してみようと考えました。歯が悪い人のための調理法方を体験し、もっと工夫できればしてみようと思いました。
今回は、歯が悪い人への工夫でしたが、手間のかかる作業が多かったと思います。食事を満足に楽しめない場面は歯が悪い意外にも様々あります。どんな時も、作る側は面倒くさいと思わずに料理を提供してほしいです。そのどんな場面でも、作る側の努力は、食べる側に十分伝わると感じたからです。食事は、気持ちの交流であることを知りました。お年寄りのように、私たちも自分の体を知り、食事という行為をもっと楽しみ大切にしていくべきだなと感じました。