令和4年度 食文化栄養学実習

山下史郎ゼミ■フードマーケティング研究室


好きな夢が見られる食べ物
明晰夢を見るための食事要因を考える

 皆さんは夢を見ますか? 私は小さい頃から明晰夢(夢だと自覚している夢)かつコントロールできる夢を見ることができます。しかし、世の中には「嫌な夢を見るくらいなら寝たくない」「せっかく寝るならいい夢を見たい」などの声も多くあります。そこで、今はまだ世の中にないが、充実した夢を見ることで寝ている時間を有意義に活用したいというニーズに答える商品があればより人生が豊かになるのではないか、という疑問をきっかけに、この研究テーマとしました。
 明晰夢を見るためには質の良い睡眠が欠かせません。まず、睡眠に影響する食べ物や香り等の影響因子や、夢を見る環境条件について調べました。さらに、明晰夢をみるための条件を考慮して、好きな夢が見られるようになるための食べ物について検討してきました。その後は、調香師の方へインタビューを行い夢や睡眠に影響を与える香りについての実際を学びました。また、夢の専門家のもとでの2泊3日の睡眠実験に被験者として参加し、明晰夢を見る人の特徴や本研究に対する意見をお聞きしました。その結果としては、やはり質の良い睡眠をとり、鋭い五感を持つ人が明晰夢を見る傾向にあることがわかりました。とはいえ、質のよい睡眠と五感を鍛えるといっても、アプローチの仕方は人それぞれです。そこで、私自身が一週間の行動記録を行い明晰夢の要因を分析し、それをもとにゼミ生6人にも同様の行動記録を行ってもらい、明晰夢を見ることができるのかを検証しました。
 今回は、これらの詳しい結果とそれを踏まえて考案したアウトプットを発表します。この研究を通して、皆さんに明晰夢の魅力が伝わり、生活の中でもっと身近な存在になればと思います。そして、いつかは誰もが好きな望んだ夢を見られる世の中になることを願っています。

喫香の時間
新しいティータイムの提案

 カフェや喫茶店は、皆さんにとってどんな場所だろうか。カフェ、喫茶店には、美味しい飲み物と食べ物、ゆったりとした時間や好きな人との談笑が弾む。そんなあたたかい時間が流れる空間をつくり上げることが、幼い頃からの私の夢だった。今後の「お茶の時間」には新たにどんな価値が置かれるだろうかと考え、実習テーマに設定した。まずは「お茶の時間」の原点と捉えられる茶道や、中国より生まれ英国から影響を受けた喫茶文化などの「お茶の時間」の歴史を学ぶことにした。この文献調査より、私は「お茶の時間」を『食を通じて、人とコミュニケーションを図ったり、また個人で嗜好品に向き合う時間のことであり、この時間を通して精神的満足感を得ること』と定義した。そして今までは人と楽しむお茶の時間がメインとして存在していたが、コロナの影響もあり人の動きに変化があった今、また新しい「お茶の時間」が根付いてもおかしくないと考える。
 ここでリラックスを求められる「お茶の時間」で重要な要素である「香り」に着目する。日本古来の香りの文化「香道」について調べ、現代のカフェ・喫茶店の在り方と香りが融合する可能性について調査した。香道は遊びを交えながら高価な香りを季節や証歌とともに嗜む。香りをたのしむことが中心でありながら、季節や証歌を重んじる姿勢が文化的であり、室町時代の人のステータスにも関連していた。香道になぞらえ香りをたのしみ、リラックスするためにあえて飲まない「香りをきく時間」をあたらしいお茶の時間にできる、それが「喫香の時間」と考えた。「お茶の時間」は日本の、世界の、食文化であり、これからも変化し続けるものである。継承し続けるべき「お茶の時間」のカタチと現代の社会的価値観を掛け合わせて、これからのお茶の時間の姿をみつけられればと考える。

中医学×栄養学「なに」を「どれだけ」を探る

 医学西洋とは異なる中医学には「未病」という概念があります。これは「病気ではないけど健康でも無い状態」のことを指し、冷え性や胃腸の不調などが例として挙げられます。それらの未病は体質により異なり、体質ごとに食べるべき食材も変わります。ところが、何をどれだけ食べればいいのかは中医学の文献にはほとんど明示されていません。栄養学は食品を炭水化物や脂質など栄養素から見て、それぞれの栄養素がどのくらい必要なのかを定めています。対して中医学に基づいた食養生を指す薬膳では、長い歴史をかけて判明した食材の効用を知った上で、一人一人の体質や症状に合わせて好ましい食べ物・控えた方が良い食べ物を考えるものです。そこで、体質ごとに何を食べたらいいのか、また栄養学に照らし合わせるとどのくらいの量を食べるのが適切なのかを知りたくなりました。これまで、中医学の考え方と、気虚・気滞・血虚・瘀血・陰虚・痰湿という6つの体質ごとの食材を整理してきました。それぞれの体質においてなにをどのくらい食べるか、どんな点を気をつけると良いかなどを記した表を様々な人の意見も踏まえ作りました。また、薬膳アドバイザーの資格勉強を通じて、食材ごとの詳しい特徴や中医学全体への理解を深めています。その中でも五行属性表や五性などの知識も取り入れ研究を進めています。五行属性表は体のさまざまな部分と季節・味・感情などを関連づけている表であり、五性は食材ごとに体を冷やす食べ物から温める食べ物まで五段階に分けたもので、表やメニュー作りに応用しています。また、薬膳料理の提供をしているお店に実際に行き、実店舗ではどのように薬膳料理を考えてメニューを作っているのかを学び、自分のメニュー作りにも活かしています。体質の診断ツールも作成し、中医学を知らない人でも日常に応用できるような形を1年間で作りまとめています。

エンジョイ・生ごみ
廃棄食材のアップサイクルを考える

 「生ゴミ」と聞いて、どのような印象を持つだろう。汚い・臭いなどマイナスのイメージを思い浮かべることが多いと思う。私は食事の片づけをしているとき、生ゴミにはもっと多くの可能性が眠っているのではないかと考えた。このテーマを考え始めた当初は、生ゴミを食べられることができれば面白いかもという興味と、我が家の生ゴミの量を減らしたいという想いがあった。生ゴミについて調べていく中で、アップサイクルという言葉を知った。食べられるようにするだけでなく、生ゴミが新しい価値のある存在に変換できたらさらに面白いと考えた。家庭の使い切れず捨てることになってしまった食材や、使用済みの油、野菜や果物の廃棄部分などをアップサイクルすることをめざして、いろいろと試行錯誤してきた。
 まずアップサイクルの先行事例を調査したが、多いものは、企業による生ごみの衣類・雑貨・建築材料・美容品などへのアップサイクル事例だった。規模や技術力の点からみて、家庭では難しいものが多かった。そこで企業事例は参考程度とし、家庭内の限られたものでできるアップサイクル活動を検討することとした。具体的には「使用済みの油」と「賞味期限切れの牛乳」を、日常生活で使用できるものや、災害時に役立ちそうなものを作ることに挑戦している。製作に失敗したアップサイクル挑戦も報告する予定である。生ゴミのアップサイクルへの挑戦は、わが家の食材廃棄量を減らしたいという想いもあるため、この挑戦で最終的にわが家の生ごみがどれくらい減ったかのかといった報告もできればしたいと考えている。この研究を通じて生ゴミの新たな可能性を知ってもらい、アップサイクルにわくわくするような気分をみなさんと共有できていたら幸いである。

モネを食べる
絵画を五感で楽しむ方法の提案

 私は高校生時代、画家クロード・モネの「睡蓮」を鑑賞し魅了された。沢山ある「睡蓮」の作品の中で最も好きなものは1917年のもの、モネの作品の中で最も抽象性が高いものである。睡蓮の細部を写実していないため、鑑賞した人によって見え方が異なることが好きだと感じる点である。
 ところで、一般的に絵画の鑑賞方法は、見ること(視覚)が主であり、さらには、鑑賞している空間に存在する各種の音(聴覚)や油絵の具などの匂い(嗅覚)、見ている場所の足触り(触覚)などでも楽しめるが、味(味覚)を通じた鑑賞の方法は、隣接するカフェなどのイメージメニューや飲み物程度にとどまっているのが通例である。そこで、私は「味覚」を軸にした新しい鑑賞方法があるのでないかと考えた。近年の芸術体験には、Immersive Museumやチームラボ等の、最新の映像技術や音響を利用した鑑賞方法もある。それらも視覚や嗅覚、触覚中心の鑑賞方法であり、味覚には触れられていない。さて、皆さんは昔からのかき氷シロップの赤色を見て何味を想像するだろうか?イチゴ味だと思う人が多い。実は色やにおいが違うだけで他の色でもほぼ同じ味なのをご存じだろうか。赤色の視覚情報とイチゴの香料からの嗅覚情報で、脳内でイチゴ味が認知される。この現象をクロスモーダル現象という。本研究ではこのクロスモーダル現象を活用した、新しい絵画の鑑賞方法を提案する。私の好きな「睡蓮」をモチーフに映像の準備をした。視覚と味覚をつなげる方法に関する先行研究を参考にしながら、モネの絵の色調を変化させることで味覚の変化としても楽しめる可能性を試すことにした。本来の色を含めた四種の色調が異なる映像を見てもらいながら、水や砂糖水、食塩水、酢などを舐めてもらい、クロスモーダル現象が体験できたのかを調査する。

こだわり野菜をブランドに
マッシュルームとレタスのキャラクター設定の試み

 みなさんは野菜をどこで購入しますか?スーパーや八百屋が多いでしょうか。国内だけ見ても、そこでは出会えない、希少性の高い美味しい野菜がたくさんあります。そのような野菜を調べ、生産者の想いを知るにつれ、こだわり野菜をもっと多くの人のもとへ届けたいという思いを持つようになりました。そして、そのためにはブランド化が必要だと考えました。具体的には、ネーミングやロゴ、パッケージ作成、プロモーションなどの企画のお手伝いです。
 本研究では、高知県仁淀川町で生産されている「仁淀(によど)マッシュルーム」と、埼玉県小川町で生産されている「クレオテクノロジーのフリルレタス」について、各生産者様のご協力を得て作業を進めています。これまでは、マーケティングやブランド化について文献調査を行い、実際に仕事としている方に取材をすることで学びを深めました。また、実際に生産地や販売場所に伺い、生産者の方に想いやこだわりを取材しました。ご協力いただく二つの農作物のうちの一つである「仁淀(によど)マッシュルーム」は、奇跡の清流と呼ばれる仁淀川の水を生産の全工程に使用し、肥料も天然由来のものだけを使用したことで、本当に香り高く、みずみずしいマッシュルームになっています。また、クレオテクノロジーのレタスは菌数が少ないため日持ちし、重量感があり食感も抜群です。これらの特徴を中心として二つのブランド化を進めています。それぞれが持つ長所、そして購入者が求めているニーズを探り、スーパーに並んでいる同じ野菜と差別化したブランド化を行うこと、そしてこだわり野菜の独自のおいしさやこだわりを表現して届けることを目標とし、実際に体験しながらブランド化についての研究を行っていきます。

フルーツで出汁をとる
ドライフルーツ出汁の可能性を探る

 出汁(だし)は、主に鰹節や昆布、煮干しなどの乾物からとられます。そこで同じ乾物であり、出汁として一般的に使用されない「ドライフルーツでも出汁がとれるのではないか」という仮説を思いついたことをきっかけにこのテーマを設定しました。ドライフルーツはそのまま食べたり、スイーツに使用されることが多いですが、「ドライフルーツ出汁」を作成することで料理にも使用できるようにしドライフルーツの活用の幅を広げたいという考えから、ドライフルーツ出汁を使用した料理の提案を目的とし、研究に取り組んでいます。
 ドライフルーツ出汁をとるために、出汁とドライフルーツについてそれぞれ調査を行いました。まず、出汁に関しては、縄文時代には「だし汁」という概念ができていたことや、昆布、鰹節共に種類によってうま味成分の含有量が異なることが分かりました。ドライフルーツに関しては、ドライフルーツの他にセミドライフルーツ、発酵ドライフルーツがあることや、フルーツの種類によって乾燥させるとうま味成分が増加するものと減少するものがあることが分かりました。また、詳しい方からお話を聞くためドライフルーツ専門店へ行きました。店員の方から香りの強いドライフルーツについてや、デトックスウォーター、フォンダンウォーターを活用するのはどうかというアドバイスをいただくことができました。今後はこれらの情報を参考にドライフルーツ出汁の試作、官能評価を行い、評価の高かったドライフルーツ出汁の栄養成分等を分析します。そして誰でもドライフルーツ出汁を楽しめるようレシピ化し、ドライフルーツ出汁を使った料理の提案を行っていきます。
 この研究を通じて出汁やドライフルーツの可能性を多くの方に感じていただけると嬉しいです。