令和4年度 食文化栄養学実習

高島美和ゼミ■英語圏文化研究室


継ぎ、繋ぐ菓子
ベトナムに伝わるフランス文化

 専門学校製菓科での学びを通し、国・時代を越え、伝え継がれてきた食の背景に興味を持った。ある時知人の「ベトナムで食べたカヌレが美味しかった。」という話を聞き、フランスの伝統菓子が、ベトナムで美味しく食べられるようになったその背景が気になったことをきっかけに研究を始めた。
 ベトナムはかつてフランスの植民地。劣悪な支配を受け過酷な生活を余儀なくされた過去がありながら、その街並みや食文化のあちこちには今もフランスの面影が残る。これを踏まえ本研究の目的を「ベトナムがフランスから影響を受ける文化に絡めた菓子の製造・販売を通し、文化のルーツと、人々を繋ぐ食の素晴らしさを伝えること」とした。  前期では主に文献調査を通し、植民地時代のベトナムの様子や、ベトナムに伝わったフランスの文化について学んだ。不平等な重税、過労、逆らう者に下される公開処刑の罰。想像を超える残酷な支配像が覗え、統治下にある国で暮らすことの厳しさを知った。
 そんな時代にフランス人の指導によって栽培が始まったコーヒーは、独自の発展を遂げ、今や世界2位の生産量を誇る。飲用も徐々に国民へ浸透していき、独立後も人々の生活に根付いていた。しかし主に栽培されるロブスタ種は他と比べ味が劣るとされる。そこで美味しく飲むための工夫から生まれたのが、コンデンスミルクを入れる飲み方である。その大きな特徴が「ベトナムコーヒー」として1つの文化を形成した。
 後期ではベトナムコーヒーを使用したシュークリーム、そして本研究を始めたきっかけであるカヌレの2品を製造し、「コミュニティ食堂そらいろ」にて販売を行う。1日の活動通して出会う人たちへ、ある国で生まれた“食”や“文化”が別の国、後世へと伝え繋がれ長い時間を生きていくことの意義、素晴らしさを伝える。

冷蔵庫と食品ロス

 どんなときに食品を廃棄してしまうだろうか。昨今、SDGsが掲げられ、食品ロス問題が取り上げられる機会が増えた。調理過程における過剰除去、食べ残し、消費期限・賞味期限切れなど食品を廃棄してしまう理由はたくさんあると考える。その中で私は冷蔵庫での食品ロスに着目した。きっかけは、冷蔵庫に多くの食材を保存することで冷蔵庫の奥に埋もれてしまい、腐敗や食べ忘れが起きていることを新聞記事で知ったことだ。本来食べられるはずだった手つかずの食品の廃棄を少しでも減らしたいと考えた。新聞で報道された状況が増えたのはコロナ禍で、外出自粛が求められたことで食品をまとめ買いをする機会が増えた人も多いのも原因かもしれない。冷蔵庫が普及したことで食品を長期間保存できるようになったため、食品ロスの一つの要因にもなるのではないかと考え、冷蔵庫の歴史を調査しようと考えた。
 実習では家庭用冷蔵庫の機能の変化や普及の歴史、日本の食生活の変化と食品ロス問題について文献調査してきた。冷蔵庫の歴史はあまり長くなく、1952年に一般家庭用の電気冷蔵庫が発売されてから今年でちょうど70年だ。発売当時は価格も高く庶民には高嶺の花でほとんど普及しなかった。そのため普及には時間がかかり、電気冷蔵庫が一般家庭に完全に普及したのは1978年ごろであり、人々の生活に定着してからそこまで長い年月が経っていないことが分かる。電気冷蔵庫の普及で食品を保存できるようになったことで食生活が豊かになり、買い物の頻度も減ることで家事の負担も減った。しかし、その一方で食材を使いきれなかったり、奥に埋もれて食べ忘れてしまうことで腐敗させてしまう食品ロスの問題が発生するようになったと考えられる。食品ロス問題は1人1人が意識し、できることを続けることが大切だと考える。この研究を通して、手つかずの食品の廃棄の削減に少しでもつなげたい。

眠れない夜にハーブティー

 日本の平均睡眠時間は7時間22分、南アフリカは9時間13分。日本は圧倒的に睡眠時間が短い。原因として考えられるのはストレスや長時間の通勤・通学、スマホの使用時間の増加である。かく言う私も睡眠不足に悩まされている一人である。布団に入ってもなかなか寝つけない、朝起きる気力がないなどの身体的・精神的な体のだるさを抱えていた。そこで不眠を解消するため、リラックス効果と睡眠促進効果のあるハーブを使用し、そのハーブは睡眠の質を上げる効果があるのか調べることにした。
 ハーブとは「香りを持っていて食などに役立つ有用な植物」のことで、古くからヨーロッパ諸国の山野に自生していた、バジル、タイム、ローズマリーなどの葉や花の香りを食用にしたり、薬草として生活の中に取り入れていたものである。前期の発表では睡眠効果のあるハーブの紹介と、実際にブレンドしたハーブティーを紹介した。ハーブティーが苦手な人でも飲みやすく、蜂蜜や牛乳を加え、ハーブの香りを抑えた配合にした。ブレンドした3種のハーブティーを実際に2か月ずつ飲み続け、体調や睡眠にどのような効果があるのかを検証していくことにした。
 後期の発表ではその3種のハーブティーの検証結果の報告と睡眠効果のある栄養素を取り入れたお菓子の製作について報告する。例えば、アミノ酸の一種で、ストレスを軽減させリラックス効果があるGABA、緑茶や玉露に含まれるうま味成分テアニン、コーヒーや赤ワインに含まれるポリフェノールなど調べれば調べるほど睡眠に必要な栄養素はある。調べる中で睡眠に悪いといわれているカフェインをふくむ食材も調理工程や温度を変えるだけで有利な効果を発揮したり、食材同士を掛け合わせることで効果を上げることができるなどの発見があった。

お料理絵本で西洋の郷土菓子を味わいきる

 どんなお菓子にも生まれたきっかけや関わった人が存在し、必ず文化や歴史を有している。皆さんは普段、そのような背景を気にかけているだろうか。私は背景を知ることがそのお菓子の持つ豊かさを実感させ、「食」の充足感をより高めることができるのではないかと考えた。そこからカトリックのイタリア、 フランス、スペイン、ポルトガルの4カ国を対象に郷土菓子を取り上げ、レシピだけでなくお菓子の背景やその国の文化、風習を知ることができるお料理絵本の作成をテーマとして実習を進めている。
 中間発表ではお料理絵本の構想や宗教、そして対象とした4カ国の国ごとの郷土菓子の特徴について発表した。その後も調査を続けていくと、国内の気候・風土による作物の違いだけでなく、隣国との貿易や戦争、婚姻といった歴史の中の関係から生まれる文化の交流やキリスト教という宗教の影響の大きいこと で多様な郷土菓子が生まれたことが分かった。例えば、南蛮菓子として知られるカステラも元々はスペイ ンの修道院からポルトガルに、そして日本に伝わった。また、フランスのお菓子として有名なマカロンも イタリアからフランスに嫁いできた貴族の娘がアイスクリームやフロランタンなどその他のお菓子、カト ラリーの文化とともに広めた。なんと、フランスのお菓子はイタリアの影響を強く受けているのだ。身近 なお菓子の背景をこのように簡潔に知ることでもより味わい深くなったのではないだろうか。
 今回の発表では、調べてきた様々ある郷土菓子の中からお菓子の歴史や国ごとの文化、風習、価値観な どについてお料理絵本の内容に合わせて季節ごとに説明する。
 郷土菓子の材料や製法などの特徴、歴史や 風習を知ることでそれぞれの国の「らしさ」を感じてもらいたい。

パークのエリアを召し上がれ
〜限界オタクの挑戦〜

 皆さんも一度は行ったことがあるであろうディズニーリゾート。私にとってディズニーは夢のような特別な場所。行くとウキウキした気持ちになれる。そしてとっても奥が深い。なぜなら各エリアやアトラクション一つ一つにはバックグラウンドストーリーと呼ばれる物語があるからだ。しかし、このバックグラウンドストーリーは意外と知られていないエリアやアトラクションにも多く存在している。そしてそのバッググラウンドストーリーを知ることで、アトラクションに並んでいる時に見る謎の絵画や置物の意味がわかり、なぜそんな物が飾られているのかがわかる!…かもしれない。ディズニーリゾートの各エリアに込められているバックグラウンドストーリーを 知ってもらうきっかけを食を通して作りたいと考え、研究を進めた。
 中間発表では、ディズニーランドの三つのエリア(トゥーンタウン、クリッターカントリー、ウエスタンランド)をイメージした料理やお菓子を作り、それと同時にそのエリアバックグラウンドストーリーについて発表した。本発表ではディズニーシーの三つのエリアをイメージした料理やお菓子を作り、そのエリアのバックグラウンドストーリーを紹介する。また、発表では説明できないアトラクションやレストランのことについて前回と同様に冊子を作成する予定だ。エリアのバックグラウンドストーリーと関係しているアトラクションやレストランについて知ることで、そのレストランでその料理が作られている理由を知ることができる上、アトラクションに乗っている間だけでなく、待っている時間も楽しく過ごすことができるようにバックグラウンドストーリーにまつわる情報を詳しく記載していきたいと考えている。

花のある食卓で癒し空間をつくる

 花を飾ると気分が明るくなることや、心が休まるように感じることがある。また、飾る花の色によってもその気分は変わってくる。種類や色によって異なるイメージを演出してくれる花を食空間に取り入れることで、食卓がよりくつろげる癒しの空間になるのではないかと考え、テーマに決めた。
 前期では実際に花を見ることでネガティブな情動が減ること、血圧や脳活動に影響を与え、ストレスを身体が効率的に低減させてくれることなどが分かる実験を取り上げて、花を飾ることで得られる効果についての知識を深めた。また、花を選ぶときのポイントや長持ちさせる方法など飾るうえでの基礎についてまとめた。テーブルコーディネートの本から季節感のある花であること、食卓に飾るうえでは香りがきつすぎない花であること、花粉が落ちにくい花であることなどが重要なポイントだと分かった。花のある食空間をつくる参考として、花屋に併設されたカフェでの市場調査の結果報告も行った。コンセプトや客層、特徴はそれぞれ異なるものの、どこも食事と空間をゆっくり楽しめる場所だった。飾られている花、色味などによって重厚感のある落ち着きや、開放的でリラックスできる空間など様々に分けられた。
 前期で調査したことをまとめて活かし、今回は四季に合う花を使用した食卓の提案を行う。文献調査で分かった好まれやすい花の特徴や、人気の花のアンケートのランキング上位など、情報を踏まえて、春・夏・秋・冬それぞれで3種類ずつ提案する。使用する花の特徴や生ける際のポイント、イメージしたテーブルシーンについて発表する。好きな花やどんな空間にしたいかを想像しながら花を選び、飾ることで食卓をさらにくつろげる癒し空間にする提案を行う。

映像で伝える「自分と周りに優しく食べること」
より心を動かす映像づくり

 今の日本の食品ロス570万トンのうち、家庭から出るロスの割合は261万トン(46%)である。そしてその要因の一つは調理過程における食材の過剰除去である。捨てられがちな野菜の葉っぱや茎や皮は、実は栄養価が高い。例えば大根の皮。大根の皮には肌の改善や老廃物を排出するビタミンPが含まれ、ビタミンCと合わせて摂ることでシミの原因となるメラニンを減少させるなど美肌効果がある。このように野菜を摂食可能なところまで食べることが自分の健康や周囲の環境の改善に繋がることが考えられる。
 そこで私は近年発展しているYoutubeなどの動画コンテンツを用いて、食感などが原因で捨てられてしまっている野菜の可食部位を美味しく食べる方法と、栄養効果を発信していきたいと考えた。どうすれば捨てていた食材の部位を食べたいと思ってもらえるのか?美味しそうだと思ってもらえるのか?を考え、映像の中でも「端的に伝える」ことを目的としたコマーシャルや食品ロスに関連するものに着目し、より人に伝わりやすい映像について研究を行った。また映像を構成している要素を構図・色・音に分け、おいしさを表現する上で何が適切かを考えた。その中でも「音」は料理の美味しさを伝える上で特に大きな役割があると知った。調査の結果を活かし、食材を美味しそうに表現するために、映像のもつ音や動きなどの要素を用いて作品を制作している。
 作品のテーマは「自分と周りに優しく食べること」。私自身もなぜ今まで捨ててしまっていたのかを振り返り、それらをおいしく食べられる方法が世の中には沢山あることを伝えたい。物語や音楽を取り入れることでより伝わりやすさを追求し、同世代やこれからの世代に向けて健康と環境にやさしい食生活を提案する。