令和4年度 食文化栄養学実習

衛藤久美ゼミ■国際協力学研究室


料理で楽しく学ぶ理科

 私は大学に入学し料理は化学反応から出来ていることを学び興味深く感じたが、料理が好きでも理科、特に化学が苦手な人が多いという現状にギャップを感じた。本実習の目的はこのギャップを埋めるために、料理の楽しさを活用しながら楽しく理科を学ぶきっかけを作ることとした。中間発表会では小・中学校の理科の教科書の内容から、結晶化、酸性とアルカリ性、物質の加熱による変化を取り上げ、琥珀糖、ロックキャンディー、バタフライピーのドリンク、クッキーの試作を行った。今回はたんぱく質分解酵素、浸透圧を取り上げ、パイナップルゼリー及び桃のシロップの試作の結果について、さらにこれまでの実習内容をまとめた冊子について発表する。
 缶詰のパイナップルでは酵素が失活しているためゼリーを作る際にゼラチンを使用しても固まるが、一部固まらないことがあった。ゼラチンをしっかりと溶かさなかった事が原因であったことがわかった。桃のシロップを作成した際に氷砂糖が想定した期間が経っても溶けなかった。瓶を振る頻度が不十分だったことがわかった。以上の失敗もふまえ化学変化や化学反応をわかりやすく伝える方法を検討した。
 これまでの実験と試作を基に、理科に苦手意識を持っている中学生以上を対象とした冊子を作成した。冊子は見開き1ページ目に反応のキーワードとレシピ、2ページ目により詳細な解説を載せた。キーワードはレシピに関係する用語の定義を簡潔に記載した。またレシピの工程にもキーワードを記載し、どこでその反応が起きているかを理解できるようにした。さらに写真やイラストを多く使用し、ポイントとなる部分は文字のサイズを変えるなどメリハリをつけることでわかりやすく伝わるよう工夫をした。
 実習を通し相手にわかりやすく伝えることの難しさと、試作を行う事の重要性に気づくことができた。

“もしも”に備えて野菜をストック

 誕生日が災害の日であることから災害食について興味を持ち調べていく中で、災害時には炭水化物中心の偏った食生活と極度のストレスから身体と心の健康悪化を引き起こす人が多いことがわかった。そこで栄養不足を補充できる食品として、保存性の高い「乾燥野菜」に注目し、災害時にも活用できないかと考えた。野菜は乾燥させることで、保存性に加えて栄養価や風味も高まるため、常用するにも便利な食材であり、日常生活に取り入れやすい。そこで本実習では、野菜の備蓄方法の1つとして「乾燥野菜」を活用したローリングストック方法を提案することを目的とした。中間発表会では乾物・干し野菜の魅力と干し野菜の干し方について発表した。今回は、乾燥野菜を活用した具体的なローリングストック方法と、その情報発信の2点ついて発表する。
 実習1では、乾燥野菜を活用したローリングストック方法を検討するために、干し野菜の保存期間の実験と乾燥野菜を活用したレシピの考案を行った。レシピでは災害時だけではなく、日常生活でも乾燥野菜を取り入れられるように様々な調理法を用いて活用法を考えた。
 実習2では、その情報を発信するため川越市の「つばさ館まつり」に参加した。パネルを用いた説明に加えて、実習1で考案したレシピを記載した冊子を作成し配布をした。参加者に興味を持ってもらえるように、レシピの他、干し方や調理のコツなども掲載するなどの工夫をした。
 実習を通して、乾燥野菜は災害時だけでなく日常生活でもおいしく活用でき、かつ備えられる食材として有効であることがわかった。同時に災害食として乾燥野菜を備えるためには、日常生活から取り入れて“もしも”の事態に活かせるスキルが必要だと実感した。

ゼロウェイストキッチンを作りたい

 世の中にはごみが多く環境破壊が進んでいることを学んできた。しかし、自身を含めほとんどの人が何かしらのごみを出して生活していることに疑問を感じた。身近なところを見てみるとキッチンから出るごみの量が多く、料理人を目指す者としてまずはキッチンから出るごみをなくすところから始めようと考えた。本実習の目的は、生ごみとして捨てられる食材を活用し、お客様に食べてもらえるような料理をごみを出さずに作ることである。中間発表会では、日本におけるゼロウェイストの定義や食品ロスの実態、環境問題の5R、書籍を参考にして試作したゼロウェイスト料理について発表した。
 今回はまず、ゼロウェイスト宣言をしている徳島県上勝町の「ゼロウェイストセンター」を見学した。町内から集められた窓枠やリサイクルショップで売れ残った瀬戸物などの廃材を利用しているにも関わらず素敵なインテリアのホテルが作れること、ごみを細かく分別してリサイクルすることがごみ削減に繋がることなどが分かった。次に、レストランなどで提供することを想定したオリジナルのゼロウェイスト料理を考案した。普段は捨てている食材に新たな価値をつけ、食材の調達や片付けの工程でもごみが出ないように気を付けた。また、蜜蝋ラップやシリコンラップなど繰り返し使えるラップを試用した。繰り返し使えるラップはごみにならないだけでなく、食材の保存状態が良くなり、食材を包んだり食材を入れた器に被せたりといくつもの使い方ができることが分かった。
 実習を通して、意識と工夫で本来であれば捨てられるものを活用したり捨てるものが出ないようにしたりすることが可能なことが分かった。しかし、現代社会で生活していく上で完全にごみをなくすことは容易ではない。ゼロウェイスト生活を目指し、今後も継続してごみをなくす工夫を考えていきたい。

エプロンシアターで食品ロスを子供に伝えたい

 私はSDGs(Sustainable Development Goals)の「飢餓をゼロに」という目標と食品ロスが多い現状に矛盾を感じた。授業を通じて食に関する知識は子供の頃からの積み重ねであることがわかったため、本実習の目的は親子で語り継いでいくサスティナブルな観点を取り入れた食育の教材を考案することとした。中間発表会では、食に関する絵本の特徴や内容、絵本以外のアナログ教材について発表した。文献調査の結果、実際に触れることができ両手が空く特徴があるエプロンシアターに魅力を感じたため、エプロンシアターをベースに複数の教材を組み合わせた食育教材を作成することとした。今回は食品ロス削減に関する食育の考案と実施について発表する。
 食育の考案は、目標設定、テーマ設定、学習指導案の作成、教材の作成の順に行った。結果目標は毎日元気に過ごす子供を増やす、行動目標は食事を残さず食べる子供を増やす、苦手なものも一口は食べる子供を増やす、学習目標は食品ロスの現状を知る子供を増やすとし、「みんなでへらそう!しょくひんろす!」をテーマに設定した。食育の流れを学習指導案にまとめ、ゼミでのディスカッションをふまえて修正を重ねた。エプロンシアターは、幼児の男の子を主人公とし、さまざまな仕掛けを作成した。エプロンシアターの他に地球をモチーフにしたキャラクターなどのペープサートを組み合わせ、楽しく飽きさせないことを心がけた。また紙芝居でまとめを行い、食品ロスについて理解を促し、子供自身がやってみようという気持ちになるような工夫をした。考案した食育は、保育園や住民対象イベントで実施した。
 実習を通じて、子供にSDGsや食品ロスについて伝えることは難しいと痛感した。食育を通じて楽しく学んだ内容を保護者と共有し、持続的な学びとなることを願っている。

日本人に優しいプラントベースな食事法の提案

 私は、食と地球環境との繋がりがあることに興味を持ち、人にも地球環境にも優しいプラントベースな食事法について関心を持った。日本人の食生活状況に視点を置き、プラントベースな食事法の特徴を活かし、日本人の「健康の促進」と「日本の食料自給率の向上」に繋がるプラントベースな食事法を考案することを本実習の目的とした。中間発表会では、プラントベースな食事法の栄養面や調理面での特徴および課題点について発表した。
 今回は、まずはプラントベース商品を多く販売している専門店7店舗の調査を行い、陳列商品の特徴や品揃え、入手方法についてまとめた。次に、プラントベースな食事法を普段の食生活の中で上手に取り入れていく方法を2点検討した。1つ目は、専門店調査を通して知った、プラントベースな動物性食品の代替品の中から、チーズ、卵、マヨネーズ、肉をピックアップし、それらを食料自給率の高い身近な食品を使ったレシピを考案し試作を重ねた。動物性食品に近づけるために、動物性食品の原料や特徴を考慮して植物性食品の選択を行い、代用方法を考案した。2つ目は、プラントベースな食事法の栄養面の課題点をふまえて、健康の促進のために意識して摂りたい栄養素と食料自給率の向上にも繋がるワンプレートメニューを考案した。具体的には、たんぱく質、鉄、カルシウム、ビタミンD、ビタミンB12が豊富な食材を使い、吸収効率を考慮したメニューを考案し、試作と改善を繰り返した。そして、これらをまとめたリーフレットを作成し、プラントベースな食事法の上手な取り入れ方について情報発信をすることとした。
 実習を通して、食生活のすべてをプラントベースに置き換えるのではなく、普段の食生活とのバランスを取りながらプラントベースな食事法のメリットを上手に取り入れていくことが良いと改めて実感した。